サッカーのワールドカップで、日本はベスト16に入りました。ベスト8を賭けたパラグアイ戦で引き分け、残念ながらPK戦で敗れました。普段はサッカーなど興味のない私ですが、ワールドカップの決勝ともなれば、熱狂的に日本チームを応援していました。
今回の試合は引き分けでした。ベスト8に進む権利をPK戦で失ったということで、厳密的には敗れてはいないのです。ですが、勝負は残酷です。必ず勝者と敗者に分かれます。次の試合に進めなかったのは事実ですから、残念ながら敗れたということにしましょう。
勝ちと負けという概念があります。どちらが良いことでしょうか?勝つことが良いことに決まっていますか?逆に、負けるのは良くないことなのでしょうか?
長い人生を歩んでいけば、数多くの勝負に直面します。出産、兄弟げんか、小学校の運動会、中学校の期末試験、高校の部活動での県大会、大学入試、卒業論文、就職活動、昇進、転居、恋愛、結婚、転職、そして闘病。どれも大切な戦いであり、勝負ですが、勝ち負けをどう考えますか?
勝つことはすばらしい経験です。そこに至るまでの経験や苦労が報われる瞬間です。この報われる喜びのために、人は努力するのです。そしてまた、新たな目標を据えて、勝負に挑んでいきます。次も勝てればよいですね。でも、勝ち続ける人生とは、幸せなものでしょうか?勝者の影には必ず敗者が存在します。勝ち続ければ、敗者の影が増えていくのです。そして、いつか敗者の側に立つことを恐れます。勝てば勝つほど敗れる怖さが大きくなっていきます。
敗れる怖さを感じない人がいます。時代に乗っている人、背中から風を受ける強い人。でも、回りから見れば脳天気な危うい人に見え、医師からは、躁状態と診断されてしまうかも知れません。恐れを知らない人は、本人は幸せでしょう。恐れを感じてしまうために、人は落ち込んだり悩んだりするのです。他人の目を気にしない(できない)性格があります。アスペルガー症候群といって、自閉症の一種です。他人の目が気にならないので、場にそぐわない物言いや振る舞いをしてしまう。人付き合いが苦手になりますが、こういう人の方が、案外勝ち続けられるのかも知れません。
闘病も勝負と書きました。治れば勝ち、治らなければ負け、でしょうか?私は病気になることは良いことだと思っています。病気になって初めて、そのつらさを知るのです。病気になったことがない人には、本当の闘病のつらさは理解出来ません。私も医師として患者さんに向き合っていますが、経験のない病気に関しては、教科書や他の患者さんの伝聞から伺い知るのみで、本質を理解出来ていないと思います。逆に経験したことのある病気は、心から親身に説明出来ます。私達医師は一つでも多くの病気になって、本質を知るべきですね。医師ではなくても、病気になれば優しくなれます。病気を一つすると、人生のステージが一つ上に上がるのです。ということは、勝つことなのかも。
風邪や軽いケガならすぐ治るので、気は楽です。では、がんや脳卒中のような重い病気になったら、負けでしょうか?今や2人に1人はがんにかかる時代です。がんになっても、治らなくても、決して負けではありません。がんになって初めてわかる、たくさんのことがあります。健康のありがたみ、家族のありがたみ、仕事、食事、何でも出来る喜び。歩ける喜び、目が見える喜び、聞こえる、感じる喜び、生きている喜び。そんなことが理解出来るようになったら、すばらしいこと。患者さんだけでなく、ご家族にも経験値が上がります。ステージがさらにいくつも上がるということです。病気になって初めて、いろいろわかってくるのです。
勝ちもあれば負けもある。負けてわかる勝つ喜び。勝ってわかる負ける悔しさ。両方順番に経験していきたいものです。勝ちばかりでも負けばかりでも良くない。両方上手に経験していきましょう。幸運の女神様は、幸運と不運を順番にくださるそうです。宝くじが当たる幸運もあれば、どぶに落ちないですむ幸運もあります。負けにもいろいろあります。受験で失敗する負けも、100円引きの総菜が売り切れて買えなかった負けもあります。負けの後には必ず勝ちと幸運が訪れますので、負けもまた良しと切り替えましょう。
ワールドカップ、惜しかったですが、いつかはどこかで負けるのですから、今回は負けたけど良かった、清々しかった。日本の代わりにパラグアイが次の試合に行けたのです。パラグアイの人たちが喜ぶことができて、良かった。日本もよく頑張りました。駒野選手も頑張りました。また次も良い試合をしてください。そんなことを考えながらテレビの前で楽しみました。
|